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東京地方裁判所 昭和52年(行ウ)299号 判決 1988年4月19日

東京都新宿区西新宿八丁目四番五号

原告

三洋石油株式会社

右代表者代表取締役

笠井麗資

右訴訟代理人弁護士

西岡文博

右訴訟復代理人弁護士

坂本誠一

羽尾芳樹

菊島敏子

小林実

清水京子

同区北新宿一丁目一九番三号

被告

四谷税務署長事務承継者

新宿税務署長

西尾博

右指定代理人

河村吉晃

大原豊実

早川宮次郎

石黒邦夫

主文

一  四谷税務署長が原告に対し昭和四八年四月一四日付けでした原告の昭和四四年九月一日から昭和四五年八月三一日までの事業年度の法人税の更正(所得金額七四八万五一六〇円を超える部分)及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた判決

一  原告

1  四谷税務署長が原告に対し昭和四八年四月一四日付けでした次の各処分をいずれも取り消す。

(一) 法人税の青色申告の承認を昭和四三年九月一日から昭和四四年八月三一日までの事業年度(以下「四四事業年度」という。)以後取り消す処分(以下「本件取消処分」という。)

(二) 原告の四四事業年度の法人税の更正(所得金額九二万六七五一円を超える部分)及び重加算税賦課決定のうち国税不服審判所長が昭和五二年五月九日付けでした審査裁決により取り消された部分を除くその余の部分(以下更正を「本件四四事業年度更正」と、重加算税賦課決定を「本件重加算税賦課決定」と、両者を併せて「本件四四事業年度更正等」という。)

(三) 原告の昭和四四年九月一日から昭和四五年八月三一日までの事業年度(以下「四五事業年度」という。)の法人税の更正(所得金額七四八万五一六〇円を超える部分)及び過少申告加算税賦課決定(以下「本件四五事業年度更正等」といい、本件四四事業年度更正等と併せて「本件更正等」という。)

(四) 昭和四四年四月分源泉徴収に係る所得税の納税告知及び不納付加算税賦課決定(以下「本件納税告知等」という。)

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二原告の請求原因

一  本件取消処分とその違法性

1  四谷税務署長(原告の納税地の変更に伴い、その権限は、被告に承継された。以下同署長も併せて「被告」という。)は、原告に対し、法人税法一二七条一項一号及び三号に掲げる事実に該当するとの理由により、昭和四八年四月一四日付けで本件取消処分をした。そこで、原告は、右取消処分について、昭和四八年六月四日異議申立てをしたが、同年九月三日付けで棄却決定を受け、更に、同年九月二八日審査請求をしたが、昭和五二年五月九日付けで棄却裁決を受けた。

2  しかしながら、原告には法人税法一二七条一項一号及び三号に該当する事実がないから、本件取消処分は違法である。

二  本件更正等とその違法性

1  被告は、昭和四八年四月一四日付けで、別紙一1の(一)及び(二)(課税処分の経過表)記載のとおり、本件更正等をし、原告は、同表記載の経過で本件更正等に対する不服申立手続を経由した。

2  しかしながら、本件更正等は、いずれも原告の所得を過大に認定したもので違法である。

三  本件納税告知等とその違法性

1  被告は、原告が原告代表者である笠井麗資に対し昭和四四年三月一八日に三〇〇万円を、同年四月一五日に四〇〇万円をそれぞれ賞与として支払つたものと認定し、昭和四八年四月一四日付けで、別紙一2(課税処分の経過表)記載のとおり、本件納税告知等をし、原告は、同表記載の経過で本件納税告知等に対する不服申立手続を経由した。

2  しかしながら、原告は笠井麗資に対し、昭和四四年三月一八日に三〇〇万円、同年四月一五日に四〇〇万円をそれぞれ賞与として支払つたことはないから、本件納税告知等は違法である。

第三原告の請求原因に対する被告の認否

一  請求原因一1の事実は認める。同一2は争う。

二  同二1の事実は認める。同二2は争う。

三  同三1の事実は認める。同三2は争う。

第四被告の主張

一  本件取消処分の適法性

1(一)  訴外三洋石油株式会社(本店、東京都目黒区上目黒三丁目一四番一二号。以下「目黒三洋」という。)名義の当座預金(以下「本件各当座預金」という。)が、日の出信用組合(昭和四五年一月一〇日吸収合併により八千代信用金庫となる。)滝野川支店、協和銀行新宿支店(旧四谷支店)、城南信用金庫青山支店及び中央信用金庫四谷支店に、それぞれ別紙二の1(本件各当座預金明細表)記載のとおり設定されていた。

(二)  本件各当座預金は、以下のとおり、原告に帰属する。

(1) 目黒三洋は、設立以来何らの事業活動も行つていなかつたものである。すなわち、目黒三洋には従業員がおらず、その本店所在地には事業所も存在しない。また、その商業登記簿上昭和四三年八月二七日から昭和四四年七月一七日までの間東京都新宿区内藤町一番地に支店を設置したとされているが、その支店長等の責任者や従業員を配置していた事実もない。したがつて、目黒三洋は、設立以降帳簿書類の備付け、記録、保存をせず、商法上要求されている決算、法人税の確定申告も行つていなかつた。加えて、目黒三洋の代表取締役である笠井麗資は、目黒税務署所部係官が目黒三洋の昭和四三年一〇月一日から昭和四四年九月三〇日までの事業年度の法人税について昭和四四年一二月にした調査に立会つたが、その際、右係官に対し、目黒三洋は設立以来休業状態で何ら事業を行つていないので、確定決算は行つていないし、帳簿書類の備付けも一切ないと答弁した。以上のところから、目黒三洋は設立以来何らの事業活動も行つていなかつたことが明らかである。

(2) 右に述べたとおり、目黒三洋の本店及び支店は、現実には存在しなかつたものであるところ、本件各当座預金の取引に係る現金等の受渡しは、取引当初から常時原告の事務所で行われていた。

原告の代表取締役である笠井麗資は、四谷税務署所部係官が原告の法人税についてした調査に立会つたが、その際、右係官に対し、終始目黒三洋名義の手形割引等の取引が原告の行為である旨説明した。したがつて、本件各当座預金に係る取引は当初から原告が行つていたことが明らかである。

(3) 原告は、原告が目黒三洋から本件各当座預金を譲り受けたと主張する昭和四四年九月一日以後においても、目黒三洋名義で日の出信用組合に差入れられていた昭和四三年一二月三日付けの当座勘定約定書を変更することなく取引を継続し、右取引に際しては、昭和四五年二月一九日まで、従前と同一の印鑑を使用していた。また、原告が昭和四五年二月二〇日付けで八千代信用金庫滝野川支店に当座勘定約定書とともに提出した念書によれば、目黒三洋名義で差入れられた前記当座勘定約定書は原告自身が差し入れたものであること、原告は、右当座勘定約定書に基づいて原告が振り出した約束手形、小切手又は原告が引き受けた為替手形の取扱いについても前記昭和四五年二月二〇日付けの当座勘定約定書の定めを適用することに同意していることが認められる。更に、原告は、原告が目黒三洋から本件各当座預金を譲り受けたと主張する昭和四四年九月一日以降である昭和四五年四月三日付けで八千代信用金庫滝野川支店に提出した借入申込書に、会社設立年月日を昭和四三年一月二六日と記載したものであるところ、これは目黒三洋の設立年月日であつて、原告の設立年月日ではない。

以上の各事実に徴すれば、原告は、本件各当座預金が当初から原告に帰属するものであると認識していたというべきである。

(4) 以上の各事実を総合すれば、本件各当座預金は目黒三洋ではなく、原告に帰属することが明らかである。

2(一)  栄光物産伊藤友良名義の普通預金(以下「本件普通預金」という。)が、別紙二の2(本件普通預金明細表)記載のとおり設定されていた。

(二)  本件普通預金は、以下のとおり原告に帰属する。

(1) 本件普通預金の名義人である伊藤友良は、八千代信用金庫に対する届出住所である新宿区四谷四丁目一八番地に実在していない。

(2) 本件普通預金について、昭和四四年八月一日不渡りにより九〇〇万円の手形入金が取り消された結果、不足額が生じたが、右不足額は、同日、日の出信用組合滝野川支店に設定されていた目黒三洋名義の当座預金から二二〇万円を引き出して補てんされた。したがつて、本件普通預金と目黒三洋名義の右当座預金は同一人に帰属するものと推認できるところ、右当座預金が原告に帰属するものであることは前記1で述べたとおりである。

(3) 原告が八千代信用金庫に対し昭和四五年四月三日付けで提出した借入申込書及び同借入申込書に係る八千代信用金庫の記録には、非拘束性預金欄に普通平残との名目で、本件普通預金の昭和四五年四月三日現在の残高と同額である二四万七一四三円が記載されている。これは、八千代信用金庫が本件普通預金を原告の取引に係るものであると認識していたことを示すものである。

(4) 本件普通預金に入金された手形の多数が、いずれも本件各当座預金に入金された手形と同様、目黒三洋の裏書によるものである。

(5) 以上の各事実を総合すれば、本件普通預金が原告に帰属することは明らかである。

3  原告は、四四事業年度において、本件各当座預金及び本件普通預金(以下「本件各当座預金等」という。)を利用して、手形割引又は手形貸付け(以下後記三2(2)イによる取引も含めて「本件手形割引等」という。)を行い収益を挙げていたが、本件手形割引等に係る帳簿書類の備付け、記録又は保存を行わず、本件手形割引等の取引を隠ぺいしていた。

4  右事実は、法人税法一二七条一項一号及び三号に該当するから、本件取消処分は適法である。

二  本件四四事業年度更正等の適法性

1  所得金額の計算根拠

原告の四四事業年度の所得金額は、次の表のとおり、<1>の申告所得金額に<2>の金額を加算し、<3>の金額を減じた一億七七三八万八五〇一円であり、右<2>及び<3>の金額は、次の2及び3で説明するとおりである。

<省略>

2  受取利息、割引計上もれ 一億八二九九万九三三八円

(一) 前記一3で述べたとおり、原告は、本件手形割引等による貸金業を営み収益を挙げていたが、本件手形割引等に係る帳簿書類等の備付け、記録、保存を行わず、しかも、本件手形割引等による収益の実額計算を可能ならしめる資料の提示もしなかつたので、推計によつて算出せざるを得なかつた。 (二) そこで、被告は、本件手形割引等による収益の額を次の(1)で述べるとおり認定した貸付総額に、次の(2)で述べるとおり認定した平均収益割合を乗じて算出した。

(1) 貸付総額 二〇億九一四二万一〇一七円

貸付総額は、本件各当座預金等の出金合計額から、計算誤り訂正額等貸付資金として使用されたものでないことが明らかな金額を減じて算出した。その内訳は次のとおりである。

ア 本件各当座預金中日の出信用組合滝野川支店に設定されたもののうち貸付資金として使用された金額は、次の表のとおり、<1>の出金合計額から<2>ないし<6>の金額を減じた九億一〇九〇万二〇五六円であり、右各金額の内訳は、別紙三(出金明細表1及び2)記載のとおりである。

<省略>

(注1)預金払戻し金額のうち、原告の他行預金口座に入金されたもの

(注2)原告の代表取締役笠井麗資の個人資産を取得するための代金の一部として、菅谷光之に支払われたもの

イ 本件各当座預金中協和銀行新宿支店に設定されたもののうち、貸付資金として使用された金額は、次の表のとおり、<1>の出金合計額から<2>及び<3>の金額を減じた一〇億三〇三六万三三一一円であり、右各金額の内訳は別紙四(出金明細表1及び2)記載のとおりである。

<省略>

ウ 本件各当座預金中城南信用金庫青山支店に設定されたもののうち貸付資金として使用された金額は、次の表のとおり、<1>の出金合計額から<2>及び<3>の金額を減じた一億一八一二万五六五〇円であり、右各金額の内訳は別紙五(出金明細表)記載のとおりである。

<省略>

エ 本件各当座預金中中央信用金庫四谷支店に設定されたもののうち貸付資金として使用された金額は、昭和四四年八月二六日の出金額である二万円である。

オ 日の出信用組合滝野川支店に設定された本件普通預金のうち貸付資金として使用された金額は、出金合計額である七九一八万三三三七円から不渡取消合計額である四七一七万三三三七円を減じた三二〇一万円であり、その内訳は別紙六(出金明細表)記載のとおりである。

カ 以上アないしオで述べた各貸付資金額を合計した金額である二〇億九一四二万一〇一七円が四四事業年度の貸付資金総額である。

(2) 平均収益割合 八・七五パーセント

平均収益割合は、原告の公表帳簿上の四五事業年度の貸付総額六億二九二四万四一一三円に対する受取利息額五二七九万二八七三円の割合である八・四パーセント(小数点二位以下四捨五入)及び昭和四五年九月一日から昭和四六年八月三一日までの事業年度の貸付総額七億三〇二九万八六〇九円に対する受取利息額六六七八万八〇八〇円の割合である九・一パーセント(小数点二位以下四捨五入)を算出し、更に、右各割合を単純平均して算出したものである。

(三) 本件手形割引等による収益の額を算出するに際して採用した右(二)の推計方法は、次に述べるとおり合理性を有するものである。

(2) 一般に貸金業においては、金員それ自体が商品であり、資金量が収益の額を決定する最大要因であるから、貸金による収益の額を算出するためには貸付資金を基礎とすべきである。ところで、原告の四四事業年度確定申告書の付属書類である損益計算書によれば、原告には右事業年度中貸金業以外の事業に係る売上げ及び仕入れが全く存しないのであるから、簿外預金である本件各当座預金及び本件普通預金の出金額のうち、そうでないことが明らかなものを除きその余は全て貸付資金として使用されたものとみるのが相当である。したがつて、前記(二)(1)で述べた貸付総額は、推計の基礎事実として正確に把握されたものというべきである。

(2) また、原告は、昭和四四年九月一日以降の二事業年度については、損益計算書、貸借対照表及び会計帳簿等に貸付総額及び受取利息を記載しているのであるから、右記載額を基礎として前記(二)(2)で述べたとおり平均収益割合を算出し、これを前記(二)(1)の貸付総額に適用することには合理性があるというべきである。

この場合、同業種同規模法人の平均収益割合を適用することも考えられないではない。しかし、一般に貸金業における収益の多寡は、営業店舗の規模、従業員の数及び立地条件等に左右されるものではないし、また、商品等の製造又は販売等に要する主要項目等を比較することもできない。更に、市中貸金業者の貸出金利がその貸付形態や担保の有無・種類等によつて多少異なるものであることを勘案すると同業種同規模法人の平均収益割合よりも前記(二)(2)で述べたように算出される平均収益割合を適用することがより合理的な推計方法というべきである。

3  支払利息、割引料計上もれ 六五三万七五八八円

原告の日の出信用組合滝野川支店及び城南信用金庫青山支店からの借入金に係る支払利息及び手形割引に係る割引料の合計額が、次の表のとおり六五三万七五八八円であるから、同金額を損金に算入する。右金額の計算根拠は別紙七記載のとおりである。

<省略>

4  以上のとおり、本件四四事業年度更正は原告の所得金額の範囲内でされたものであるから適法である。

5  本件四四事業年度更正によつて、原告は、法人税として、申告額二五万九二00円のほか新たに五一四七万五九00円を納付すべきこととなつたが、右増差税額について、原告は、所得の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし、又は仮装し、それに基づいて確定申告書を提出していた。そこで、本件重加算税賦課決定は、国税通則法六八条一項の規定により、右増差税額の三〇パーセントに当たる一五四四万二五〇〇円を重加算税として賦課決定したものであるから適法である。

三  本件四五事業年度更正等の適法性

1  所得金額の計算根拠

原告の四五事業年度の所得金額は、次の表のとおり、<1>の申告所得金額に<2>の金額を加算し、<3>の金額を減じた一三四五万五二八三円であり、右<2>及び<3>の金額は、次の2及び3で説明するとおりである。

<省略>

2  受取利息、割引料計上もれ 二二三九万九二〇三円

(一) 原告は、四五事業年度中において、本件手形割引等による貸金業を営み収益を挙げていたが、本件手形割引等に係る帳簿書類等の備付け、記録、保存を行わず、しかも、本件手形割引等による収益の実額計算を可能ならしめる資料の提示もしなかつたので、推計によつて算出せざるを得なかつた。

(二)(2) そこで、被告は、本件手形割引等による収益の額を、次の(2)で述べるとおり認定した貸付総額に、前記二2(二)(2)で述べた平均収益割合を乗じて算出した。右推計方法は、前記二2(三)で述べたとおり合理性を有するものである。

(2) 貸付総額 二億五五九九万〇八九八円

貸付総額は、次のア及びイで述べる金額を合計したものである。

ア 本件普通預金のうち貸付資金として使用された金額は、出金合計額一億七七一二万九四四四円から不渡取消合計額二二二六万二七二七円を減じた一億五四八六万六七一七円であり、右各金額の内訳は、別紙八(出金明細表)記載のとおりである。

イ 原告は、原告の代表取締役である笠井麗資からの手形による借入金一億〇一一二万四一八一円を貸付資金として使用していた。

3  未納事業税相当額 一六四二万九〇八〇円

原告の本件四四事業年度更正による増差所得金額に対する事業税相当額一六四二万九〇八〇円を損金に算入する。

4  以上のとおり、本件四五事業年度更正等は、原告の所得金額の範囲内でされたのであるから、適法である。

四  本件納税告知等の適法性

本件各当座預金が原告に帰属するものであることは前記一1で述べたとおりであるところ、原告の代表取締役である笠井麗資は、昭和四四年三月一五日、菅谷光之から、東京都新宿区内藤町一番地所在の借地権付建物を代金二三八〇万円で買い受け、その代金として、本件各当座預金中日の出信用組合滝野川支店に設定されたものから、同年三月一八日に三〇〇万円、同年四月一五日に四〇〇万円を菅谷に支払つた。したがつて、右合計額七〇〇万円は、原告が笠井麗資に支給した臨時的な給与すなわち役員賞与というべきであるから、本件納税告知等は適法である。

第五被告の主張に対する原告の認否等

一  被告の主張一について

1  同一1についての認否

(一) (一)の事実は認める。

(二) (二)冒頭の主張は争う。

(1) (二)の(1)のうち、目黒三洋が設立以降帳簿書類の備付け、記録及び保存をせず、決算、法人税の確定申告も行つていなかつた事実は認めるが、その余の事実は否認する。

(2) 同(2)の事実は否認する。四谷税務署所部係官が原告の事務所を訪ねたこと、その際原告の代表者である笠井麗資が応待したことはあるが、両者の間では雑談的な会話が交されたにすぎず、調査の実質を欠くものであつた。

(3) 同(3)の事実は認めるが、原告が本件各当座預金が当初から原告に帰属するものであると認識していた旨の主張は争う。

2  同一1についての原告の反論

(一) 原告は、昭和二七年五月二〇日、設立された会社であり、その後数次にわたる商号変更及び本店移転を経た後、昭和四一年四月一〇日、本店を東京都新宿区内藤町一番地に移転し、昭和四三年九月一日、商号を旭東企画株式会社に、目的を石油製品の販売に変更し、更に、昭和四四年七月二三日商号を現商号に、目的を石油販売等に変更したうえ、その事業活動を行い、帳簿書類を備置し、昭和四一年以後は適法に法人税の確定申告を行つていたものである。

(二) 一方、目黒三洋は、その目的を石油製品の販売業等、本店を東京都目黒区上目黒三丁目一四番一二号として昭和四三年一月二六日に設立された会社であつて、その設立後、右本店所在地に設けた事業所において石油製品の販売及びこれに伴う資金調達のための手形割引等の事業活動を行つていたものである。

被告は目黒三洋がその本店所在地に事業所を設けていないと主張するが、仮にそうであつたとしても、目黒三洋は原告の本店所在地の事業所において右事業活動を行つていたものであつて、一般に同一事業所において別個の法人がぞれぞれ事業活動を行うことも認められるところであるから、それが格別不自然であるとはいえないものである。

(三) 被告は、本件各当座預金が原告に帰属する根拠として、原告が目黒三洋から本件各当座預金を譲り受けたと主張する日以後も前記第四の一1(二)(3)で被告が主張するような事実が存したことを挙げている。

しかしながら、右各事実は、原告が、昭和四四年八月二五日目黒三洋からその資産及び負債の一切を同年九月一日をもつて承継し、その結果、目黒三洋がその後独自に日の出信用組合滝野川支店との間で取引を行うことは考えられなかつたため、簡易に処理しようとしたことに基づくものであつて、何ら不自然ではなく、本件各当座預金が原告に帰属することの根拠とはなり得ないものである。

(四) 以上の各事実に徴すれば、本件各当座預金は元来その名義人である目黒三洋に帰属していたものであり、それが昭和四四年九月一日をもつて原告に承継されたものであることが明らかというべきである。

3  被告の主張一2について

(一) (一)の事実は認める。

(二) (二)の(1)ないし(4)の事実は認めるが、本件普通預金が原告に帰属するとの主張は争う。右(1)ないし(4)の事実から本件普通預金が原告に帰属すると認定することはできないものである。

4  同一3の事実は否認する。

5  同一4の主張は争う。

二  被告主張二について

1  同二1のうち、表の<1>の申告所得金額九二万六七五一円は認めるが、その余の事実は否認する。

2  同二2の主張は争う。

3  仮に本件各当座預金及び本件普通預金が原告に帰属するものとすると、同二2について次のように認否する。

(一) 同二2(一)の主張は争う。

(二) 同二2(二)(1)のアのうち、表の<1>の出金合計額が一三億八三一八万五八五七円であること、減算項目の内訳が別紙三(出金明細表1及び2)記載のとおりであり、その各合計額が表の<2>ないし<6>のとおりであることは認めるが、<1>の出金合計額から<2>ないし<6>の金額を減じて算出した額が貸付資金総額であることは否認する。特に、別紙三(出金明細表1及び2)記載の出金額内訳のうち次に述べるものについては、貸付資金として運用されていないことが明らかである。

(1) 昭和四三年一二月一〇日付けの出金額四三七万円、同月二〇日付けの出金額二〇〇〇万円、同月二八日付けの出金額七四八万円、昭和四四年一月八日付けの出金額六〇〇〇万円、同年八月二一日付けの出金額三九五万二〇〇〇円及び同日付けの出金額一五四万八〇〇〇円は、いずれも原告が他の銀行に入金した手形又は小切手が不渡りとなつたため、その買戻しをする必要上現金で払戻しを受けたものである。

(2) 昭和四三年一二月一一日付けの出金額五〇〇万円は、銀行相互間の資金移動額である。

(3) 昭和四四年二月二一日付けの出金額二〇〇〇万円は、原告の借受金債務の弁済に充てたものである。

(4) 昭和四四年二月二八日付けの出金額六三〇〇万円及び同日付けの出金額三〇〇〇万円の合計額九三〇〇万円は別紙九(手形割引経過表)記載の順号1ないし13の各手形について他から受けた割引依頼に応じたことから、同表の各割引先で割り引いていつたん同表の各入金先へ入金した割引受取合計額九一二四万九三九八円を交付するために払戻しを受けたものである。

(5) 昭和四四年三月二五日付けの出金額五〇〇〇万円は、別紙九(手形割引経過表)記載の表の順号14ないし18の手形について他から受けた割引依頼に応じたことから、同表の割引先で割り引いていつたん同表の入金先へ入金した割引受取合計額四二三四万九四一〇円を交付するために払戻しを受けたものである。

(6) 昭和四四年四月四日付けの出金額一三〇〇万円は、別紙九(手形割引経過表)記載の表の順号19及び20の手形について他から受けた割引依頼に応じたことから、同表の割引先で割り引いていつたん同表の入金先へ入金した割引受取額一〇九八万二三一〇円を交付するために払戻しを受けたものである。

(7) 昭和四四年一月一六日付けの出金額一四〇〇万円は、旭東油業株式会社に対し、貸付け以外の目的で送金したものである。

(8) 昭和四四年四月五日付けの出金額二二〇万円は、原告が株式会社東横商事から買い受けた油の代金として、同社に対し支払つたものである。

(9) 昭和四四年五月一日付けの出金額五〇万一九一六円は、原告の従業員の保険料支払いに充てたものであつて、貸付資金でないことは、右金額が端数であることからも明らかである。

(三) 同二2(二)(2)のイのうち、表の<1>の出金合計額が一二億一六〇二万九五七一円であること、減算項目の内訳が別紙四(出金明細表1及び2)記載のとおりであり、その各合計額が表の<2>及び<3>のとおりであることは認めるが、<1>の出金合計額から<2>及び<3>の金額を減じて算出した額が貸付資金総額であることは否認する。

特に、別紙四(出金明細表1及び2)記載の出金額内訳のうち次に掲げるものは、いずれも原告が行つていた石油販売事業に伴う必要経費に充てたものであつて、貸付資金として運用されたものではない。一般に人がいわゆる市中金融機関から、その金利が銀行金利よりも高率であるにもかかわらず、金員を借り入れるのは、早急に現金を必要とする事情があるからであるところ、右各出金額はいずれも送金に数日を要する交換払いの形で払い戻されているのであるから、貸付資金として運用されたものでないことが明らかというべきである。

ア 昭和四三年一一月一二日付けの出金額三〇万円

イ 同月一五日付けの出金額二三九万六〇〇〇円

ウ 同月二一日付けの出金額二三四万円

エ 同月三〇日付けの出金額二一〇万円

オ 同年一二月三日付けの出金額一〇〇〇万円

カ 同日付けの出金額一五一万円

キ 同月二七日付けの出金額四四〇万円

ク 昭和四四年一月二二日付けの出金額八〇万円

ケ 同月二三日付けの出金額一一万円

コ 同年二月一日付けの出金額二〇〇万円

サ 同年三月一日付けの出金額一二万二四〇〇円

シ 同年四月八日付けの出金額四八万三〇〇〇円

ス 同月九日付けの出金額四二万円

セ 同年六月二一日付けの出金額二五〇〇万円

ソ 同年七月二日付けの出金額一九万円

タ 同年八月二二日付けの出金額五〇万円

(四) 同二2(二)(1)のウのうち、表の<1>の出金合計額が二億八八二一万三一三六円であること、減算項目の内訳が別紙五(出金明細表)記載のとおりであり、その各合計額が表の<2>及び<3>のとおりであることは認めるが、<1>の出金合計額から<2>及び<3>の金額を減じて算出した額が貸付資金総額であることは否認する。

特に、別紙五(出金明細表)記載の出金額内訳のうち次に掲げるものは、前記(三)で述べたと同様に、いずれも原告が行つていた石油販売事業に伴う必要経費に充てたものであつて、貸付資金として運用されたものではない。

ア 昭和四三年九月二四日付けの出金額七七万八〇〇〇円

イ 同年一〇月八日付けの出金額三〇〇万円

ウ 同年一二月二六日付けの出金額四七四万八七五〇円

エ 同月三〇日付けの出金額三三万三〇〇〇円

オ 昭和四四年二月一九日付けの出金額一八万円

カ 同月二六日付けの出金額一四〇万円

キ 同年四月三〇日付けの出金額八四〇万六〇〇〇円

(五) 同二2(1)のエのうち、昭和四四年八月二六日の出金額が二万円であることは認めるが、それが貸付資金として運用されたことは否認する。

(六) 同二2(二)(1)のオのうち、出金合計額が七九一八万三三三七円であること、減算項目である不渡取消額の内訳が別紙六(出金明細表)記載のとおりであり、その合計額が四七一七万三三三七円であることは認めるが、右出金合計額から右不渡取消合計額を減じて算出した金額が貸付資金額であることは否認する。

(七) 同二2(二)(1)のカは否認する。

(八) 同二2(二)(2)のうち、原告の昭和四四年九月一日から昭和四六年八月三一日までの二事業年度の各貸付総額及び各受取利息額並びに被告主張の算出方法によれば原告の右二事業年度の平均収益割合が八・七五パーセントになることは認める。

(九) 同二2(三)の主張は争う。

仮に、原告が本件各当座預金等の出金額の一部を貸付資金として運用していたとしても、被告の主張する推計方法は次に述べるとおり不合理なものである。

(1) 一般に貸金業における所得額は、貸付資金額、貸付利率及び貸付期間を主要な要因として決定されるべきものであるから、被告が、原告について右三要因について把握することが不可能であるというのであれば、原告の所得額を推計によつて算出すること自体許されないものというべきである。

(2) 仮にそうでないとしても、被告の採用した推計方法は次に述べるとおり不合理である。

ア 被告が把握したと主張する貸付総額は極めて不正確なものであつて、推計の基礎事実として用いることは許されないものである。すなわち、原告は石油販売を目的とする会社であるから、その事業活動には当然その必要経費が伴うものである。そして、原告は、右必要経費を本件各当座預金等から支出したものであつて、このことは、前記(二)の(七)ないし(九)、(三)及び(四)でも具体的に主張したところである。被告は、原告の四四事業年度確定申告書の付属書類である損益計算書によれば、原告には同事業年度中貸金業以外の事業に係る売上げ及び仕入れが全く存しないと主張するが、同損益計算書中には売却益一〇四万八〇三九円が計上されているのであり、右売却益を挙げるためには、その前提として当然それ相当の必要経費が支出されたであろうことがうかがわれるのである。また、右以外にも、貸付資金として運用されたものでないことが明らかなものがあることは、前記(二)の(1)ないし(6)で具体的に主張したとおりである。更に加えて、被告は、本件訴訟の当初には、四四事業年度における本件各当座預金等の出金総合計額を二六億八八一二万五七四四円、減算金額を四億五二四三万七一八六円、貸付資金総額を二二億三五六八万八五五八円と主張していたところ、原告が各銀行に対する出金関係の照会調査に基づいてした反論を受けて順次その主張額を訂正していつたものである。原告がした右調査は本来被告が行うべきものであるのに、被告はこれを怠つたものというべく、したがつて、右事情は、被告が把握したと主張する貸付資金総額の不正確性を物語つているというべきである。

イ 被告の主張する平均収益割合は、単に一事業年度内に動いた金額にすぎない貸付総額と受取利息額を基礎として算出した比率を平均化したものにすぎず、貸付資金額、利率及び貸付期間をなんら考慮することなくこれらを捨象したものであるから、原告の受取利息等の額を算出するに当つて適用すべき推計方法として不合理なものというべきである。

ウ 仮に被告の主張する平均収益割合が合理性を有するとしても、原告の受取利息額等を算出するに当つては、本人比率である右平均収益割合を適用するよりも、同業者率(同業者の平均収益割合)を適用する方がより合理的である。被告は、貸金業における収益の多寡が営業店舗の規模、従業員数及び立地条件等に左右されず、商品等の製造又は販売等に要する主要項目等を比較することができないから、同業者の抽出基準の合理性が必ずしも確保されないと主張するが、被告が一方で主張するように、貸付資金量が貸金業における収益の額を決定する最大の要因であるとすると、貸付資金量において原告と近似する同業者を抽出すれば合理的な同業者率が得られるものというべく、そうであるならば、右同業者率を適用する方が、被告の主張する原告の平均収益割合を適用するよりも合理的なものというべきである。

4  同二3の事実のうち、支払利息、割引料計上もれが存在することは認めるが、その金額は争う。

5  同二4の主張は争う。

6  同二5の事実は否認し、主張は争う。

三  被告の主張三について

1  同三1のうち、表の<1>の申告所得金額七四八万五一六〇円は認めるが、その余の事実は否認する。

2  同三2の主張は争う。

3  仮に本件普通預金が原告に帰属するものとすると、同三2について次のように認否する。

(一) 同三2(一)の主張は争う。

(二) 同三2(二)(1)の主張は争う。前記二3(九)で述べたと同様の理由で、被告の採用した推計方法は不合理なものである。

(三) 同三2(二)(2)のアのうち、出金合計額が一億七七一二万九四四四円であること、減算項目である不渡取消額の内訳が別紙八(出金明細表)記載のとおりであり、その合計額が二二二六万二七二七円であることは認めるが、右出金合計額から右不渡取消合計額を減じて算出した金額が貸付資金額であることは否認する。

(四) 同三2(二)(2)のイの事実は否認する。

4  同三3の事実は否認する。

仮に本件各当座預金等が原告に帰属するものとすると、未納事業税が存在することは認めるが、その額は争う。

5  同三4の主張は争う。

四  被告の主張四について

原告の代表取締役である笠井麗資が、昭和四四年三月一五日菅谷光之から、東京都新宿区内藤町一番地所在の借地権付建物を代金二三八〇万円で買い受け、その代金として本件各当座預金中日の出信用組合滝野川支店に設定されたものから、同年三月一八日に三〇〇万円、同年四月一五日に四〇〇万円を菅谷に支払つたことは認めるが、本件各当座預金が原告に帰属し、右合計額七〇〇万円が原告から笠井麗資に支給された賞与である旨の主張は争う。

第六証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第一処分の存在及び不服申立手続の前置

原告の請求原因一ないし三の各1記載の事実は当事者間に争いがない。

第二本件各当座預金等の帰属主体

一  目黒三洋名義の本件各当座預金が別紙二1記載のとおり、栄光物産伊藤友良名義の本件普通預金が同2記載のとおりそれぞれ設定されていたことは当事者間に争いがない。

被告は本件各当座預金等がその設定の当初から原告に帰属する旨主張し、原告は本件各当座預金が昭和四四年九月一日以降原告に帰属することは自認するものの、その余の事実は否認している。そこで、以下同年八月三一日以前の本件各当座預金の帰属主体(後記二)及び本件普通預金の帰属主体(後記三)について判断する。

二  昭和四四年八月三一日以前の本件各当座預金の帰属主体について

1  本件各当座預金が少なくとも昭和四四年九月一日以降原告に帰属していることは、前記のとおり原告の自認するところであり、一旦設定された預金口座は、これが譲渡されるなどといつた事実が存在しない限り、終始同一人に帰属するのであるから、本件各当座預金が同年八月三一日以前に原告以外の者に帰属していて、原告がその者からこれを譲り受けたなどといつた事実が認められない場合には、本件各当座預金は設定さけた時から終始原告に帰属していたものと判断するのが相当というべきである。

2  本件各当座預金の名義が目黒三洋であることは、前記のとおり当事者間に争いがない。そして、原告代表者尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第三〇号証の一によれば、原告の昭和四四年八月二五日付けの取締役会議事録に同年九月一日現在を以て目黒三洋の債権債務の一切を原告が譲り受けることを原告の取締役会で議決した旨の記載がある事実が認められ、右代表者尋問の結果中には、同日現在の目黒三洋の債権債務の一切を原告が譲り受けたとする部分があり、また、証人内藤勝次の証言中には、同人が原告代表者から、原告が目黒三洋の債権債務の一切を譲り受けた旨を聞いたとする部分があるから、これらによれば、本件各当座預金はその設定の当初は目黒三洋に帰属し、同日をもつて原告に譲渡されたものであるとの事実を窺いえないわけではない。

3  目黒三洋の事業活動の有無

(一) 証人畠山栄悟の証言により原本が存在しかつ真正に成立したものと認められる乙第一六号証の一、三及び同証言によれば、目黒三洋の昭和四三年一〇月一日から昭和四四年九月三〇日までの事業年度の法人税について、目黒税務署の法人税担当職員であつた山岡正勝が同年一二月二二日に起案した原案に基づき、そのころ目黒税務署長において法人税額を零円とする旨の決定(以下「本件零決定」という。)をしていることが認められる。法人税法七四条一項によれば、法人税の確定申告期限は事業年度終了の翌日から二月以内であるが、本件零決定の原案は、目黒三洋の右事業年度の法人税の確定申告期限が過ぎてから一月以内に起案されているものであり、このことからすれば、おそらく、確定申告期限経過後から右の起案日までの間に、税務調査がされたものと推認することができる。そして、前掲乙第一六号証の三及び成立に争いのない甲第三号証によれば、右原案に添付された報告書には、同月四日、目黒三洋の代表者である笠井麗資立会の下、山岡正勝が目黒三洋の臨場調査をしたが、その際目黒三洋側から設立以来実質的な事業活動は行つていない旨の説明があつたとの記載があることが認められるのであるが、この事実に、前記推認事実及び証人内藤勝次の証言中に、同月に目黒税務署の職員が目黒三洋の調査に来た旨を聞いたとする部分があることを総合勘案すると、右報告書記載の臨場調査は、現実に行われたものと考えられるし、また、この調査のほかに右原案の根拠となるものの存在を窺うに足りる証拠がないことを併せ考えると、右報告書に記載された、代表者立会の下にされた税務調査の際、目黒三洋側から設立以来実質的な事業活動を行つていない旨の説明があつたとの事実も、真実であると認めて差支えないと解される。しかして、右のように、代表者立会の下、実質的な事業活動をしていない旨の説明があつた以上、目黒三洋が実質的な事業活動をしていなかつたと一応推認することができる。証人内藤勝次の証言、原告代表者尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、目黒三洋には、従業員が全く居らず、什器備品も全くなかつたことが認められ、更に、目黒三洋が設立以来帳簿書類の備付け、記録及び保存をせず、かつ、決算及び法人税の確定申告をしていなかつたことは当事者間に争いがないところ、右の各事実は、目黒三洋が実質的な事業活動をしていなかつたこととの前記推認事実を支持する事情というべきである。これに、目黒三洋の代表者である笠井麗資は原告の代表者でもあり、目黒三洋には従業員はいなかつたから、若し目黒三洋が現実に事業活動をしていたとすれば、代表者である笠井麗資がこれを行つていたものとするほかなく、したがつて、目黒三洋の具体的な事業活動については原告において比較的容易に主張、立証することができるものと考えられるのに、目黒三洋の事業活動について具体的な主張、立証がされていないこともまた、目黒三洋が実質的な事業活動をしていなかつたとの前記推認事実を支持するものである。

(二) 原告は目黒三洋は石油製品の販売及びこれに伴う資金調達のための手形割引等の事業活動をしていた旨主張し、原告代表者尋問の結果中には、目黒三洋は手形割引及び石油製品の販売をしていたとする部分も存在する。

まず、石油製品の販売については、原告は単に目黒三洋が石油製品の販売をしていたと概活的に主張するのみで、それ以上に具体的な取引内容(取引年月日、取引油種、取引数量等。以下(二)において同じ。)を主張していない(なお、原告は、予備的な主張の中で、昭和四四年四月五日付けの日の出信用組合滝野川支店からの出金額二二〇万円は、原告が株式会社東横商事から買い受けた油の代金の支払いに当てた旨述べているが、その主張自体から明らかなとおり目黒三洋の取引に関する主張ではないうえ、仮に右主張を目黒三洋の取引に関するものと解しても、その取引内容につき右に記載した範囲をでるものではなく、具体的な取引内容の主張はないから、右説示に反するものではない。)。そして、右代表者尋問の結果においても、目黒三洋のしていた石油製品の取引は月に二、三回、金額にして二〇〇〇万ないし三〇〇〇万円とする部分及び販売先は半分以上が旭東油業株式会社(以下「旭東油業」という。)で残りはあちらこちらのガソリンスタンドであるとする部分があるのみで、具体的な取引内容については、やはり述べられてはいない。しかも、本件訴訟の書証中には、目黒三洋が石油製品の販売をしていたことを窺わせる契約書、伝票、領収書等といつた客観的な資料は存在しない。このような、具体的な取引内容について主張、立証がなく、かつ、そのような取引が存在したことを窺わせる客観的な資料が提示されていないことは、右代表者尋問の結果中の右部分が信用し難いことを物語るものであり、目黒三洋が石油製品の販売をしていたとの原告の主張は到底採用し難いものというほかはない。

次に、手形割引については、右代表者尋問の結果中に、目黒三洋は旭東油業の振出手形及び受取手形を割引いてその資金調達をする目的で設立したもので、目黒三洋の業務の大部分は旭東油業の資金調達であつたとする部分が存在する。ところで、原告は右代表者尋問が施行される以前には、目黒三洋の手形割引は目黒三洋の行う石油製品の販売に伴う資金調達のためである旨を主張しており、この主張と右代表者尋問の結果中の部分とは一致していない。右(一)記載のとおり、目黒三洋の業務がありとすれば、それは原告の代表者でもある目黒三洋の代表者(笠井麗資)がしていたとするほかないのであり、原告の右主張はもとより原告代表者の意向に基づくものと解されるのであるから、原告の主張と右代表者尋問の結果中の部分との右の不一致は不自然かつ不合理なものというべきであり、したがつて、右代表者尋問の結果中の右部分は容易に信用するわけにはいかない。また、右代表者尋問の結果中には、目黒三洋は旭東油業の資金調達について報酬を受けていないとする部分が存在するが、右代表者尋問の結果によれば、目黒三洋と旭東油業とは同一の企業グループに属してはいないものと認められ、目黒三洋が右の報酬を受けないことを首肯させるに足りるような他の事情を窺わせるに足りる証拠もないから、右代表者尋問の結果中の目黒三洋が報酬を受けていなかつたとする部分はやはり不自然かつ不合理であつて、これを信用することはできない。そうすると、目黒三洋が旭東油業の資金調達のための手形割引をしていたものとも認めるわけにはいかない。更に、右代表者尋問の結果中には、目黒三洋は三洋開発株式会社等のような原告代表者が代表者を勤めている原告及び目黒三洋と同一の企業グループ(以下「三洋グループ」という。)に属する会社に資金を融資していたとする部分も存在するが、その具体的な内容(融資年月日、融資目的、融資額等)については全く主張、立証がないばかりか、証人内藤勝次の証言によれば、三洋グループに属する会社の帳簿書類には金融取引を含めて目黒三洋との取引があることは全く記載されていなかつたことが認められ、他に目黒三洋が三洋グループに属する他の会社に対して資金の融資をしていたことを窺わせるに足りる客観的な資料は存在しないから、目黒三洋が三洋グループに属する他の会社に対して資金の融資をしていたものとは認められない。結局、目黒三洋が手形割引等の金融取引をしていたものと認めるに足りる証拠はないものというほかない。

(三) 証人内藤勝次の証言によれば、内藤勝次税理士は三洋グループの顧問税理士として目黒三洋を除く三洋グループの全会社の法人税の申告に関与し、その他の税務相談に応ずるなどしていたこと、目黒三洋については何らの関与もしていなかつたことが認められるが、このことは目黒三洋が実質的な事業活動をしていなかつたことを窺わせる一事情というべきである。

(四) 以上によれば、目黒三洋が実質的な事業活動を全く行つていなかつたものと推認されるのであるが(前記(一)、この推認を窺えすに足りる証拠はなく(前記(二))、かえつて、右推認を支える事情がある(前記(三))。

そうすると、目黒三洋は実質的な事業活動を全くしていなかつたものと認めるのが相当というべきである。

4  被告の主張一1(一)、(二)(3)記載の事実は当事者間に争いがない。

右の争いのない事実によると、別紙二1<1>記載の日の出信用組合滝野川支店の当座預金(以下「本件日の出当座預金」という。)について、原告が目黒三洋から本件各当座預金を譲受けにより承継したと主張する昭和四四年九月一日の前後を通じて昭和四五年二月一九日まで、目黒三洋名義の昭和四三年一二月三日付けの当座勘定約定書を変更することなく取引を継続し、右取引に際し同一の印鑑が使用されていたのであるが、このことは、昭和四四年九月一日の前後を通じて右当座預金が同一人に帰属していたことを認める根拠たり得るものである。また、右の争いのない事実によると、原告が昭和四五年二月二〇日に八千代信用金庫滝野川支店(なお、日の出信用組合は、同年一月一〇日吸収合併により八千代信用金庫となつたものであり、このことは当事者間に争いがない。)に当座勘定約定書とともに差入れた念書に、右の目黒三洋名義の約定書は原告自身が差入れたものであることを認める旨の記載があるのであるが、このことは、本件日の出当座預金がその設定の当初から同一人である原告に帰属していたことを原告自身が認めていることの根拠となるものである。そして、右に述べたところと、右の争いのない事実によると、原告は、同年二月二〇日に八千代信用金庫に新たに当座勘定約定書を差し入れているのであるが、原告がその後の同年四月三日付けで八千代信用金庫に提出した借受申込書に目黒三洋の設立年月日を会社設立年月日と記載しているのであり、このことは、原告が目黒三洋から本件各当座預金を譲受けたと主張する昭和四四年九月一日の前後を通じて、原告が日の出信用組合ないし八千代信用金庫に対し、本件日の出当座預金につき、明確な形では名義変更手続をとつていないことを推認させるものであり、他に右の名義変更手続がされたことについて主張、立証はないから、右の名義変更手続がされていないものと認めるのが相当である。なお、原告代表者尋問の結果中には、原告が昭和四四年九月一日現在の目黒三洋の債権債務の一切を譲受ける旨の原告の取締役会議事録をいずれかの金融機関に差入れたとする部分があるが、本件各当座預金に関する金融機関はわずか四金融機関にしか過ぎず、差入れた金融機関の名称を明らかにできないことは不自然かつ不合理であるから、右代表者尋問の結果中の右部分はそもそも信用できないし、いずれにせよ右認定を左右するに足りない。

ところで、右の当事者間に争いのない事実によれば、本件日の出当座預金を除く本件各当座預金(以下4において「本件別当座預金」という。)についても、目黒三洋名義で設定されていたのであるが、仮に原告が、その主張のとおり、本件別当座預金を目黒三洋から譲り受け、その名義変更手続をとつたのであれば、この名義変更手続をとつたことは原告にとつて有利な事実であり、しかも、この事実を原告が主張、立証することは必ずしも困難なものとはいえないと考えられるところ、この事実については、主張、立証がないから、本件別当座預金についてもまた、昭和四四年九月一日の前後を通じて、原告は名義変更手続をしていないものと認めるのが相当である。

以上によると、本件日の出当座預金はもとより、本件別当座預金もまた、同日の前後を通じてその帰属主体が同一人であると解するのが相当である。この判断に関し、原告は被告の主張一1(二)(3)記載の事実は、原告が目黒三洋から昭和四四年九月一日にその資産及び負債の一切を承継し、同日以降目黒三洋が独自の取引を行うことが考えられなかつたために簡易な処理をしたに過ぎず、このことは、本件各当座預金がその設定の当初より原告に帰属する根拠とはならない旨主張しているが、原告の主張によれば、原告と目黒三洋とは別個の法人格を有する別個の存在であるから、真に本件各当座預金の帰属主体が目黒三洋から原告に変更したのであれば、少なくとも名義変更手続がとられるのが通常であり、この手続はさほど困難なものではないから、よほど特段の事情のない限り、この手続がされていないことが本件各当座預金の帰属主体に変更がなく、それが同一のままであるとの判断をされてもやむを得ないものというべきであり、原告の右主張の程度では、到底右の特段の事情ありとはいえない。そうすると、原告の右主張は、右の判断を覆えすに足りない。

5  原告は昭和四四年九月一日をもつて目黒三洋の資産及び負債の一切を譲り受けた旨主張するが、前記2記載の取締役会議事録以外に原告の右主張に沿う書証は存在しないし、本件全証拠によるも、右譲り受けにつき、原告と目黒三洋との間の契約書等の書面が作成されたことを窺うことはできない。資産及び負債の一切を譲渡する場合には、譲渡の対象を明確にするために通常は契約書等の書面が作成されるものであるところ、右の書面が作成されなかつたことを合理づける事由について主張、立証はない。そうすると、目黒三洋から原告へ、目黒三洋の資産及び負債の一切が譲渡されたとの事実は、存在しなかつたものと考えざるを得ず、右の取締役会議事録もこの判断を左右するに足りない。

なお、証人内藤勝次の証言、原告会社代表者尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告の帳簿書類上、昭和四四年九月一日の時点で本件各当座預金が資産として計上され、これに対応して同額が社長借入金として経理されたこと、現在に至るまで目黒三洋から譲り受けたとする負債については何らの経理もされていないことが認められる。ところで、原告が真実目黒三洋から資産及び負債の一切を譲り受けたのであれば、譲り受けの時点、あるいは事務処理上の理由で一時的に正確な経理ができないとしても相当の期間内に、その旨を正しく帳簿書類上に計上すべきものである。したがつて、原告の帳簿書類上、目黒三洋からの資産及び負債を譲り受けた旨の経理処理がされていないことは、右譲受けの事実が存在しないとの右判断を支持するものというべきである。

そうすると、原告が本件各当座預金を目黒三洋から譲り受けたということはなかつたものというほかはない。

6  原本の存在及び成立に争いのない乙第五、第七ないし第九号証によれば、本件各当座預金は多数回にわたり相当多額の入出金がされている事実(中央信用金庫四谷支店の当座預金を除く本件各当座預金の昭和四三年九月一日から昭和四四年八月三一日までの間の出金は、別紙三ないし五記載のとおりである。)が認められるところ、このような入出金の実質的な事業活動に伴うものと考えられ、前記3記載のとおり実質的な事業活動をしていない目黒三洋に帰属するものとは到底考えられない。そして、本件各当座預金が昭和四四年九月一日以前に目黒三洋以外の者に帰属していたとの主張、立証はない。

また、前記4記載のとおり、本件各当座預金は同日の前後を通じて同一人に帰属していたものと認められるところ、本件各当座預金が同日以降、原告に帰属していたことは原告の自認するところである。

そして、右5記載のとおり、原告が本件各当座預金を譲り受けた事実は認められない。

以上を総合して考えると、本件各当座預金は、その名義にかかわらず設定の当初から昭和四四年八月三一日までも、またそれ以後も終始原告に帰属していたものというべきである。

三  本件普通預金の帰属主体について

1  被告の主張一2(一)、(二)(2)記載の事実は当事者間に争いがない。

ある預金口座から他の預金口座に資金の移動がある場合、各預金口座が異なる者に帰属するときは通常はその資金移動の原因関係が存在するものであり、資金移動の原因関係が認められないときは、資金移動の当時各預金口座は同一人に帰属するものといつて差支えない。

昭和四四年八月一日の本件日の出当座預金から本件普通預金への二二〇万円の資金移動の原因関係については、原告において容易に主張、立証できるはずであるのに、その原因関係については主張、立証がないから、右資金移動の原因関係はないものと解するのが相当である。したがつて、同日の時点において本件日の出当座預金と本件普通預金とは同一人に帰属するものというべきである。

しかるところ、本件日の出当座預金が原告に帰属することは右二6記載のとおりであるから、同日においては、本件普通預金もまた原告に帰属するものというべきである。

2  被告の主張一2(二)(3)記載の事実は当事者間に争いがない。

同一の日に二四万七一四三円という端数のある預金残高を有する普通預金が八千代信用金庫のような金融機関に複数存在していたとは考え難いから、他に主張、立証のない以上、原告が昭和四五年四月三日付けで提出した借受申込書及びこれに係る八千代信用金庫の記録中の非拘束性預金欄に記載されている普通預金は、本件普通預金を指すものと認めるのが相当である。そして、右のような記載があることは、原告及び八千代信用金庫において本件普通預金が原告に帰属するものと認識していたものと認めるのが相当である。

そして、この認識が誤つていたと認めるに足る証拠はないから、本件普通預金は当時原告に帰属していたものというべきである。

3  右1、2に判断したところと、本件普通預金がその設定以来譲渡等その帰属主体が変更したことにつき主張、立証がないことを合せ考えると、本件普通預金は、その名義にかかわらず設定の当初から終始原告に帰属していたものというべきである。

四  右二6、三3記載のとおり、本件各当座預金等の帰属主体はいずれも原告であるといわなくてはならない。

第三本件取消処分の適法性

証人内藤勝次の証言、原告代表者尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、本件各当座預金等の帰属主体は、本件各当座預金等を利用して手形割引等(本件手形割引等)をしていたものと認められる。本件各当座預金が原告に帰属することは第二の四記載のとおりであるところ、被告は原告が四四事業年度において本件手形割引等に係る帳簿書類の備付け、記録又は保存を行わず、本件手形割引等の取引を隠ぺいした旨主張し、原告は、本件各当座預金等が原告に帰属することは争うものの、被告の右主張事実については、これを明らかに争わないので、これを自白したものとみなす。

右事実によれば、原告につき、法人税法一二七条一項一号及び三号に該当する事実があるということができるから、本件取消処分は適法である。

第四推計課税の適法性

一  推計の必要性

原告が本件各当座預金等を利用して手形割引等をしていたこと、四四事業年度において原告が本件手形割引等に係る帳簿書類の備付け、記録又は保存(以下「帳簿書類の備付け等」という。)をしていなかつたことは第三記載のとおりであり、本件手形割引等に係る収益について実額を把握するに足りる帳簿書類の備付け等はないから、原告の四四事業年度における本件手形割引等に係る収益については推計の必要性があるものというべきである。また、証人内藤勝次の証言、原告代表者尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は四五事業年度の初日である昭和四四年九月一日付けをもつて本件各当座預金を資産として計上し、これに関する帳簿書類の備付け等がされたが、本件普通預金については資産に計上せず、本件普通預金を利用した本件手形割引等に係る収益については帳簿書類の備付け等はされていないことが認められるから、原告の四五事業年度における手形割引等に係る収益については推計の必要性があるものというべきである。

なお、原告は貸金業による所得額は、貸付資金額、貸付利率及び貸付期間を把握しない限り推計によつて算出することは許されない旨主張しているが、右の所得額を推計する場合に、常に右の三要因の把握が必須であるとの見解は、独自の見解であることは明らかであつて、到底採用することができない。

二  推計の合理性

被告は、本件手形割引等に係る収益について、貸付金総額は本件当座預金等から判断できる額を主張し、これに原告の公表帳簿上の四五事業年度の貸付金総額に対する受取利息額の割合及びその翌事業年度の同様の割合の単純相加平均値である平均収益割合を乗じて算出しており、いわゆる本人率による所得額の推計方法を選択している。近接した事業年度の本人率により所得額を推計する方法は、その基礎となる事実が正確に把握されている場合には、これを不合理とする事由が認められない限り、それ自体合理的な方法というべきである。

この点に関し、まず、原告は、被告の採用した右推計方法は貸付資金額、貸付利率及び貸付期間を何ら考慮しないものであるから、不合理である旨主張するが、右一記載のとおり、貸金業の所得を推計する場合に、常に右の三要因の把握が必須であるとの見解は独自の見解であるが、それと同様に、右の三要因の少なくともどれか一つは必ず把握されなければならないとの見解もやはり独自の見解であつて、これら見解をもつて右の推計方法の選択を不合理とすることはできない。

次に、原告は、本人率よりもいわゆる同業者率により推計するほうがより合理的である旨主張するが、一般論として、右のようなことがいい得るとは考えられず、原告は具体的な理由をあげて被告の選択する本人率の不合理たるゆえんを主張しているわけではないから、右の主張をもつてしても、右の推計方法の選択を不合理とすることはできない。

また、他に右の推計方法の選択を不合理とする事由を認むべき証拠はない。

そして、原告の四五事業年度及びその翌事業年度の公表帳簿上の貸付金総額及び受取利息額についての被告の主張二2(二)(2)記載の事実は、原告において、仮に本件各当座預金等が原告に帰属するとされるときには、これを認める旨述べているので、この弁論の全趣旨に徴し、これを認定し得るから、推計の基礎となる事実は正確に把握されているということができ、したがつて、被告主張の本人率による右推計方法は合理的なものというべきである。

第五本件四四事業年度更正等の適法性

一  原告の四四事業年度における所得金額

1  原告の四四事業年度の申告所得金額が九二万六七五一円であることは当事者間に争いがない。

2  本件手形割引等に係る受取利息、割引料計上もれ

(一) 貸付金総額

(1) 本件日の出当座預金に係る貸付金

ア 原告の四四事業年度中の本件日の出当座預金からの出金合計額並びに減算項目としての、計算誤り訂正額、不渡取消合計額、銀行相互間の資金移動合計額、他預金及び他勘定への振替処理合計額、代表者個人資産の取得資金への充当額の合計額についての被告の主張二2(二)(1)ア<1>ないし<6>記載の事実は、原告において、仮に本件各当座預金等が原告に帰属するとされるときには、これを認める旨述べているので、これを認定することができる。

イ 預金されている金員を何らの目的なく払い戻すことは通常考えられないところ、本件各当座預金等からの出金のうちに何らの目的なく払い戻されたものがある旨の主張、立証はないから、本件各当座預金等からの出金額は、本件手形割引等その他の具体的目的に充てられたものと認めるのが相当である。しかして、本件各当座預金等からの出金額のうち、本件手形割引等以外の使途に充てられたものを主張、立証することは原告に有利なものであること、本件各当座預金等は、前記のとおり原告に帰属するものであるから、それからの出金額の使途を最も良く知るものは原告であり、現に昭和五三年二月七日の第三回口頭弁論期日に陳述された被告の準備書面一に記載された原告の四四事業年度の本件各当座預金等からの出金額のうちの貸付金総額は二二億三五六八万八五五八円であつたものが、その後における原告の具体的な主張及びその根拠の提示等により被告は最終的には貸付金総額を二〇億九一四二万一〇一七円に減額しており、原告にとつて本件各当座預金等からの出金額の具体的な使途を主張、立証することはそれほど困難なものとはいえないことに照らせば、本件各当座預金等からの出金額のうち、本件手形割引等以外の使途で支出されたことが窺われないものは、本件手形割引等による貸付金として支出されたものと認めて差支えないものというべきである。

ウ 原告の四四事業年度中の本件日の出当座預金からの出金合計額から右アの減算項目である本件手形割引等以外の使途に支出されたものの合計額を減額したものが九億一〇九〇万二〇五六円とすることは計算上明らかである。

エ 原告主張の減算項目(被告の主張に対する原告の認否等二3(二)(1)ないし(9)における仮定主張)に対する判断

(ア) 原告は、被告の主張に対する原告の認否等二が通常であり、原告において弁済の事実を立証することは比較的容易にできるはずと考えられるところ、右事実については具体的な主張も立証もないから、原告の主張する右事実は存在しないものというほかない。

(エ) 原告は同(4)記載の出金額合計九三〇〇万円は原告が他から割引依頼を受けた別紙九1ないし13記載の各手形を同別紙記載の割引先で割り引いた後に一時的に同別紙記載の入金先に預け入れていた受取合計額九一二四万九三九八円を原告に対する割引依頼先に交付するために払戻したものである旨主張している。原告代表者尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第三八号証の一ないし三、第三九号証の一及び二、第四〇、第四一号証、第四二号証の一及び二、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第四三号証によれば、右各手形が同別紙の割引年月日、割引先及び割引受取額の欄に記載のとおりに割り引かれたこと、同別紙11ないし13記載の各手形の右の割引依頼人が原告であることが認められる。しかし、右の甲第三八号証の一ないし三、第四二号証の一、二によれば、同別紙1ないし3、9及び10記載の各手形の割引料計算書上の割引依頼人は旭東油業となつていること、右の甲第三九号証の二、第四〇、第四一号証によれば、同別紙4ないし8記載の各手形の割引料計算上のそれは朝日通商株式会社となつていることが認められ、それによれば、原告が右の割引依頼人であることには疑問がないわけではない。また、原告の主張自体から明らかなように、同別紙1ないし13記載の手形に関する出金額の合計額が割引受取額の合計額より一七五万円余り多額であつて極めて不合理である。これらの点につき、右代表者尋問の結果によると、旭東油業や朝日通商株式会社が割引料計算書上割引依頼人となつているのは、その手形について右各会社が第一裏書人となつているためであり、また、出金額が多いのは、原告と原告に対し割引きを依頼した者との間に以前から貸借等の取引きがあつたことによるものであるとしているが、いずれについても、客観的な資料の裏付けを欠くものであつて、容易に信用し難い。更に、前掲乙第七号証によれば、別紙二1<2>記載の協和銀行新宿支店の当座預金(以下「本件協和当座預金」という。)に別紙九4ないし6記載の手形に対応する割引受取額四八四万四一六八円及び同別紙7記載の手形に対応する割引受取額九七三万五七五〇円が入金されたのは同別紙記載の昭和四四年二月二六日ではなく、それ以前の同月二一日であること、同別紙8記載の手形に対応する割引受取額九七三万九七五〇円が入金されたのは同別紙記載の同月二七日ではなく、それ以前の同月二六日であること、また、前掲乙第五号証によれば、本件日の出当座預金に同別紙1ないし3、9ないし13の手形に対応する割引受取額がそのままの金額では入金されていないことがそれぞれ認められる。右の諸点に鑑みると、前記原告の主張は、その前提となる事実において、不合理な点やあいまいな点が多々あるから、その主張事実が存在しないとの疑いが強い。

のみならず、仮に原告の主張どおりであるとしても、結局において、原告は、手形の割引依頼を受けた相手方に対し、その割引依頼に応じ本件日の出当座預金及び本件協和当座預金からの出金額合計九三〇〇万円を交付したものであつて、右金員の交付は金融取引によるものということができるから、その割引料の多寡にかかわらず、右の九三〇〇万円は本件手形割引等による貸付金と考えることができるものというべきである。

そうすると、いずれにせよ、前記原告の主張は採用することができない。

(オ) 原告は同(5)及び(6)各記載の出金額五〇〇〇万円及び一三〇〇万円は原告が他から割引依頼を受けた別紙九14ないし18記載の各手形及び同別紙19、20記載の各手形を同別紙記載の入金先で割り引いた後に一時的に同別紙記載の入金先に預け入れていたそれぞれの受取合計額四二三四万九四一〇円及び一〇九八万二三一〇円を原告に対する割引依頼先に交付するために払戻したものである旨主張している。弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第四四号証の一、二、第四五、第四六号証によれば、右各手形が同別紙の割引年月日、割引先及び割引受取額の欄に記載のとおりに割り引かれたことが認められる。しかし、原告の主張自体から明らかなように、同別紙14ないし18記載の各手形及び同別紙19、20記載の各手形の出金額の合計額が割引受取額の合計額よりそれぞれ七六五万円余り及び二〇一万円余り多額であつて、極めて不合理である。この点につき、原告代表者尋問の結果によると、出金額が多いのは、原告と原告に対し割引きを依頼した者との間に以前から貸借等の取引きがあつたことによるものであるとしているが、これは、客観的な資料の裏付けを欠くものであつて、容易に信用し難い。また、前掲乙第五号証によれば、本件日の出当座預金に右各手形に対応する割引受取額がそのままの金額では入金されていないこと、昭和四四年三月二五日には入金の事実がないことが認められる。右の諸点に鑑みると、前記の原告の主張は、その前提となる事実において不合理な点などが多く、その主張事実が存在しないとの疑いが強い。

のみならず、仮に原告の主張どおりであるとしても、結局において、本件日の出当座預金からの出金額五〇〇〇万円及び一三〇〇万円は、右(エ)の末尾に述べたと同様の理由により、本件手形割引等による貸付金と考えることができるものというべきである。

そうすると、いずれにせよ、前記原告の主張は採用することができない。

(カ) 原告は同(7)記載の出金額一四〇〇万円は貸付以外の目的で旭東油業に送金した旨主張しているが、右出金の目的について何らの主張もないうえ、貸付け以外の具体的な目的でされたことを窺わせる証拠は何もないから、原告主張の右事実は存在しないものというほかない。

(キ) 原告は同(8)記載の出金額二二〇万円は株式会社東横商事から買い受けた油の代金として同社に支払つた旨主張しているが、取引の日時、取引対象の油種等を具体的に主張、立証することは原告においてさほど困難ではないと考えられるところ、右事実については具体的な主張も立証もないから、原告主張の右事実は存在しないものというほかない。

(ク) 原告は同(9)記載の出金額五〇万一九一六円は原告の従業員の保険料支払いに充てたものであり、貸付金でないことは端数があることからも明らかである旨主張している。右保険料が社会保険等の公的保険のそれであるか、その余の私的な保険のそれであるかはあきらかでないが、いずれにしても原告においてその支払いにつき、保険の種類、保険料等、支払日時等を具体的に主張、立証することはさほど困難ではないと考えられるところ、右事実について具体的な主張も立証もないから、原告主張の右事実は存在しないものというほかない。

なお、手形等の割引においては端数が生じるのが通常であるから、右出金額に端数があることをもつて貸付金でないとはいえない。

(ケ) 右(ア)ないし(ク)によれば、原告主張の減算項目はいずれもそのとおりのものは存在しないものというべきである。

オ 右ウ及びエで判断した項目以外に本件日の出当座預金からの出金額のうち貸付金以外の使途で支出したものがあることを窺わせるに足りる主張、立証はないから、原告の四四事業年度の本件日の出当座預金からの出金額のうち本件手形割引等の貸付金といい得るものは、被告主張のとおり前記ウ記載の九億一〇九〇万二〇五六円と解するのが相当である。

(2) 本件協和当座預金に係る貸付金

ア 原告の四四事業年度中の本件協和当座預金からの出金合計額並びに減算項目としての不渡取消合計額及び銀行相互間の資金移動合計額の合計額についての被告の主張二2(二)(1)イ<1>ないし<3>記載の事実は、原告において、仮に本件各当座預金等が原告に帰属するとされるときには、これを認める旨述べているので、これを認定することができる。

したがつて、原告の四四事業年度中の本件協和当座預金からの出金合計額から右の減算項目である本件手形割引等以外の使途に支出されたものの合計額を減額したものが一〇億三〇三六万三三一一円となることは計算上明らかである。

イ 原告主張の減算項目(被告の主張に対する原告の認否等二3(三)の仮定主張)に対する判断

原告は被告の主張に対する原告の認否等二3(三)アないしタ記載の各出金額はいずれも原告が行つていた石油販売事業に伴う必要経費である旨主張しているが、どのような費目の必要経費であるかについての具体的な主張、立証がないばかりか、原告会社代表者尋問の結果によれば、右主張の根拠となる客観的な資料等はないものと認められるから、原告主張の右事実は存在しないものというほかない。

ウ 右ア及びイで判断した項目以外には本件協和当座預金からの出金額のうち貸付金以外の使途で支出したものがあることを窺わせるに足りる主張、立証はないから、原告の四四事業年度の本件協和当座預金からの出金額のうち本件手形割引等の貸付金といい得るものは、被告主張のとおり前記ア記載の一〇億三〇三六万三三一一円と解するのが相当である。

(3) 別紙二1<3>記載の城南信用金庫の当座預金(以下「本件城南当座預金」という。)に係る貸付金

ア 原告の四四事業年度中の本件城南当座預金からの出金合計額並びに減算項目としての銀行相互間の資金移動合計額、他預金及び他勘定への振替処理合計額の合計額についての被告の主張二2(二)(1)ウ<1>ないし<3>記載の事実は、原告において、仮に本件各当座預金等が原告に帰属するとされるときには、これを認める旨述べているので、これを認定することができる。

したがつて、原告の四四事業年度中の本件城南当座預金からの出金合計額から右の減算項目である本件手形割引等以外の使途に支出されたものの合計額を減額したものが一億一八一二万五六五〇円となることは計算上明らかである。

イ 原告主張の減算項目(被告の主張に対する原告の認否等二3(四)の仮定主張)に対する判断

原告は被告の主張に対する原告の認否等二3(四)アないしキ記載の各出金額はいずれも原告が行つていた石油販売事業に伴う必要経費である旨主張しているが、どのような費目の必要経費であるかについての具体的な主張、立証がないから、原告の右主張事実は存在しないものというほかない。

ウ 右ア及びイで判断した項目以外には本件城南当座預金からの出金額のうち貸付金以外の使途で支出したものがあることを窺わせるに足りる主張、立証はないから、原告の四四事業年度の本件城南当座預金からの出金額のうち本件手形割引等の貸付金といい得るものは、被告主張のとおり前記ア記載の一億一八一二万五六五〇円と解するのが相当である。

(4) 別紙二1<4>記載の中央信用金庫の当座預金(以下「本件中央当座預金」という。)に係る貸付金

原告の四四事業年度中の本件中央当座預金からの出金額が二万円である事実は、原告において、本件各当座預金等が原告に帰属するとされるときには、これを認める旨述べているので、これを認定することができる。そして。右二万円が貸付金以外の使途に支出されたことを窺わせるに足りる主張、立証はないから、被告主張のとおり右金額をもつて本件手形割引等に係る貸付金と解するのが相当である。

(5) 本件普通預金に係る貸付金

原告の四四事業年度中の本件普通預金からの出金額の合計額が七九一八万三三三七円であつて、減算項目としての不渡取消合計額が四七一七万三三三七円である事実は、原告において、本件各当座預金等が原告に帰属するものとされるときには、これを認める旨述べているので、これを認定することができる。そして、右出金額のうち右不渡取消合計額を除いて、貸付金以外の使途に支出されたものがあることを窺わせるに足りる主張、立証はないから、被告主張のとおり右各金額の差額である三二〇一万円をもつて本件手形割引等に係る貸付金と解するのが相当である。

(6) 右(1)ないし(5)によれば、原告の四四事業年度中の本件手形割引等に係る貸付金総額は、被告主張のとおり二〇億九一四二万一〇一七円となる。

(二) 平均収益率

原告の四五事業年度の公表帳簿上の貸付金総額及び受取利息額が六億二九二四万四一一三円及び五二七九万二八七三円であり、その翌事業年度のそれが七億三〇二九万八六〇九円及び六六七八万八〇八〇円であることは第四の二に記載のとおりであるから、原告の四五事業年度における貸付金総額に対する受取利息の割合は八・四パーセント(少数点二位以下四捨五入)となり、その翌事業年度のそれが九・一パーセント(少数点二位以下四捨五入)となること、したがつて、その単純相加平均値である平均収益率が八・七五パーセントとなることは計算上明らかである。

(三) 右(一)及び(二)によれば、原告の四四事業年度における本件手形割引等に係る受取利息、割引料は、貸付金総額二〇億九一四二万一〇一七円に平均収益率八・七五パーセントを乗じた一億八二九九万九三三八円であると推計することができる。

3  支払利息、割引料計上もれ

被告は原告の四四事業年度における支払利息、割引料の計上もれが合計六五三万七五八八円ある旨主張し、原告は計上もれの事実があることは認めるもののその額を争つているが、支払利息、割引料は、必要経費であつて、原告に有利なものであり、必要経費についてはは、原告において被告主張額を超える金額を合理的な根拠をもつて主張しない限り被告主張額をもつて正当なものと解すべきところ、被告主張額を超える金額について主張も立証もないから、右被告主張額をもつて原告の四四事業年度の支払利息、割引計上もれと解するのが相当である。

4  右1ないし3によれば、原告の四四事業年度における所得金額は被告主張のとおり、申告所得金額九二万六七五一円に前記2(三)記載の一億八二九九万九三三八円を加え、右3記載の六五三万七五八八円を減じた一億七七三八万八五〇一円となる。

二  右一4によれば、原告の四四事業年度における所得金額は一億七七三八万八五〇一円であつて、本件四四事業年度更正における所得金額一億三八四九万七〇〇三円を上回り、したがつて、原告の四四事業年度における税額は本件四四事業年度更正のそれを上回ると認められるから、本件四四事業年度更正は適法である。

また、右一億七七三八万八五〇一円と申告所得金額九二万六七五一円の差額は、弁論の全趣旨によれば、本件各当座預金等を利用して所得の計算の基礎となる事実を隠ぺいしたものと認められるから、国税通則法六八条一項により重加算税の対象となるところ、原告の四四事業年度の重加算税の対象となる税額は本件重加算税賦課決定におけるそれを上回るから、本件重加算税賦課決定は適法である。

第六本件四五事業年度更正等の適法性

一  原告の四五事業年度における所得金額

1  原告の四五事業年度の申告所得金額が七四八万五一六〇円であることは当事者間に争いがない。

2  本件手形割引等に係る受取利息、割引料計上もれ

(一) 貸付金総額

(1) 本件普通預金に係る貸付金

原告の四五事業年度中の本件普通預金からの出金合計額が一億七七一二万九四四四円であつて、減算項目としての不渡取消合計額が二二二六万二七二七円である事実は、原告において、仮に本件普通預金が原告に帰属するとされるときには、これを認める旨述べているので、これを認定することができる。そして、右出金額のうち右不渡取消合計額を除いて、貸付金以外の使途に支出されたものがあることを窺わせるに足りる主張、立証はないから、被告主張のとおり右各金額の差額である一億五四八六万六七一七円をもつて本件普通預金に係る貸付金と解するのが相当である。

(2) 被告は、原告は原告代表者である笠井麗資からの手形による借入金一億〇一一二万四一八一円を貸付金として使用していたと主張している。

右の主張は、明瞭ではないが、本件の訴訟経緯等弁論の全趣旨に鑑みると、およそ次のような主張と理解することができる。すなわち、<1>原告は、簿外の手形割引等の金融取引を行い、その際相手方から手形を入手した。<2>その後、右の受取手形を公表帳簿に受け入れたが、その反対勘定の名目を原告代表者からの手形による借入金とした。<3>そこで、公表帳簿上、原告代表者からの手形による借入金の名目で計上されている受取手形の額面金額合計一億〇一一二万四一八一円について、これを金融取引による貸付金としてものである。

ところで、原本の存在及び成立に争いのない乙第二一号証、証人物江利文の証言により真正に成立したものと認められる乙第二〇号証、同証言及び弁論の全趣旨によれば、原告の公表帳簿に原告代表者の笠井麗資からの借入金勘定が設けられており、そこに、四五事業年度において、受入回数二〇回以上、受入枚数一〇〇枚以上、額面合計一億〇一一二万四一八一円の手形の受入れが記帳されていることが認められる。

しかしながら、右の乙第二〇、第二一号証によつても、右各手形の手形金額以外の手形要件は明らかでなく、他にこれを認めるに足りる証拠はない。そして、成立に争いのない甲第八号証の一、証人物江利文の証言、原告会社代表者尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は四五事業年度にはガソリンスタンドを経営するなど石油製品販売の事業を行つていた事実が認めることができるから、原告には、石油製品の販売ないしはそれに附随する商取引に伴つて取得した手形、すなわち貸付以外の原因で取得した手形も相当数あつたものと考えられ、また、このような取引が簿外で行われ、それに伴い簿外で手形を受け取るということも充分あり得るところである。しかるに、右各手形を原告が取得するに至つた原因関係については、主張も立証もない(原告の公表帳簿において原告代表者からの借入金勘定に受取手形として記入されているからといつて、それだけで当然に原告が右各手形を簿外において取得するに至つた原因関係が手形割引等金融取引であると判断するわけにはいかない。)。

そうすると、右一億〇一一二万四一八一円は、本件手形割引等による貸付金と解するわけにはいかない。(なお、右各手形が簿外の商取引により原告が取得したものであるとすれば、それに伴い原告に収益が生ずるであろうことは容易に推察されるが、そのような収益については、本件では主張が全くない。)

(3) 右(1)及び(2)によれば、原告の四五事業年度における本件手形割引等に係る貸付金総額は、前記(1)記載の一億五四八六万六七一七円となる。

(二) 右(一)(3)記載の貸付金総額一億五四八六万六七一七円に第五の一2(二)記載の平均収益率八・七五パーセントを乗じた一三五五万〇八三七円が原告の四五事業年度における本件手形割引等に係る受取利息、割引料であると推計することができる。

3  未納事業税相当額

被告は原告の四四事業年度更正による増差所得金額に対する事業税相当額一六四二万九〇八〇円を未納事業税相当額として原告の四五事業年度の所得金額から控除するべき旨主張しているところ、右は所得の減算事由で原告に有利なものであり、原告において被告主張額を超える金額を合理的な根拠をもつて主張しない限り右被告主張額をもつて正当なものと解すべきところ、被告主張額を超える金額について主張も立証もないから、右被告主張額をもつて、原告の四五事業年度の未納事業税相当額と解するのが相当である。

4  右1ないし3によれば、原告の四五事業年度における所得金額は前記1記載の申告所得金額七四八万五一六〇円に前記2記載に一三五五万〇八三七円を加え、右3記載の一六四二万九〇八〇円を減じた四六〇万六九一七円となる。

二  右一の原告の四五事業年度における所得金額四六〇万六九一七円は、原告の申告所得金額をも下回ることになるから、本件四五事業年度更正等は原告の所得金額を誤つて過大に認定した違法なものである。

第七本件納税告知等の適法性

原告の代表者である笠井麗資が昭和四四年三月一五日に菅谷光之から被告の主張四記載の借地権付建物を代金二三八〇万円で買い受け、その代金として本件日の出当座預金から、同年三月一八日の三〇〇万円及び同年四月一五日の四〇〇万円の合計七〇〇万円を支払つたことは当事者間に争いがない。

右七〇〇万円の支払いの原因関係は、他の主張、立証のない限り、原告の代表者に対する賞与であると解するほかないところ、他の原因関係が存在することについては主張、立証がないから、右七〇〇万円は原告の代表者に対する賞与と解される。

右七〇〇万円を原告の代表者の賞与とした場合の源泉所得税額が二一八万五九二〇円となることは原告において明らかに争わないから、右金額をもつて源泉所得税額とするのが相当であり、国税通則法六七条一項によれば右税額に対する不納付加算税額は二一万八五〇〇円(同法一一九条一項により一〇〇円未満切捨て)となるから、本件納税告知等は適法である。

第八結論

以上によれば、原告の請求のうち本件四五事業年度更正の取消しを求める部分は理由があるから認容するが、その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条、九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鈴木康之 裁判官太田幸夫及び裁判官加藤就一は転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 鈴木康之)

別紙一

課税処分の経過表

一 法人税

(一)四四事業年度

<省略>

(二)四四事業年度

<省略>

2 源泉所得税

<省略>

別紙二

1 本件各当座預金明細表

<省略>

1 本件普通預金明細表

<省略>

別紙三

出金明細表 1

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

別紙四

出金明細表 1

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

別紙五

出金明細表

<省略>

<省略>

<省略>

別紙六

出金明細表

<省略>

<省略>

別紙七

支払利息・支払割引料の計算根拠

<省略>

別紙八

出金明細表

<省略>

<省略>

別紙九

手形割引経過表

<省略>

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